• 愛媛の地図づくり

    愛媛県土地家屋調査士会が目指す地図づくりについて

    ■はじめに 登記所の地図について

    不動産登記法において、登記所には地図を備え付けるものとされています。
    この「地図」は、1筆または2筆以上の土地ごとに作成され、各土地の区画を明確にし、地番を表示するものとし、また、正確な測量及び調査の成果に基づき作成するものとされています。

    ■愛媛における地図づくりの特徴(全点に永続的な境界標を設置すること)

    古くからの地図作成における標準的なモデルにおいては、境界点にペイントをする又は木杭や竹串のような一時的なものを設置し、測量作業が終了するまでがその役割とされていました。(現在も、一部を除き境界標の設置は仕様書に記載されていません。)
    しかしながら、境界標や杭がなければ、現地の境界が分からなくなってしまいます。精緻な地図が完成することにより、然る後は境界は復元することが可能ということもいわれますが、それは事実とは異なります。その理由は測量には誤差があるからにほかありません。地図の成果はデータとして保管されますが、リアルではないわけですから、現地の境界標とは密接不可分な関係であるべきものなのです。
    不動産の取引を円滑にするためには、現地の境界が明確であり、境界に争いがないなど安定していることが重要です。境界をめぐる争いは、現地における境界が不明であることに起因することがほとんどです。そのためには、現地に境界標または杭が設置されていること及び管理されていることが重要です。

    ■昭和62年 地図作成モデル作業として他に類を見ない一大壮挙(法17条地図作成モデル事業)

    法務局(登記所)における地図の作成は、昭和43年から全国の土地家屋調査士会を対象に「不動産登記法17条地図作成モデル作業」として開始されました。
    愛媛会におけるモデル作業は、昭和61年8月から63年にかけて松山市鷹子町で行われました。既に全国的に数多くの法務局で実施されていたモデル作業で、後発であったこともあり、「従前の実例にない名実共にモデルになる作業をしよう。」との士気とともに「全点に永続的な境界標を設置する」という画期的な計画がされました。
    この事業には、県下の登記を担当している法務局職員及びすべての調査士が関与し、また、地元の懇親的な協力、県・市からの境界標・境界杭の現物支援などにより実現することができました。正に不動産登記法の目的に基づいて作成された模範となる地図が、愛媛の地において誕生したのでした。
    当時の記録にも、「モデル作業で特筆すべき業務は、全筆界点に『不動標識』を設置したこと、また全点について『点の記』を作製したことであり、モデル作業として他に類を見ない一大壮挙であると自負するものである。」と記されています。
    この「全点に永続的な境界標を設置する」との精神は、愛媛会における地図づくりの原点として引き継がれていくことになりました。

    ■平成4年国土調査法第19条5項による地図づくり

    平成4年には、松山空港への新しいバイパス建設に伴う用地買収における大規模な地図訂正を行うため、松山市北斎院町(津田中学校付近)において、県の発注により地図を作成しました。この成果は測量・調査の成果が、地籍調査と同等以上の精度または正確さを有するとして国土調査法第19条5項の認証を受け、登記所に地図として備えつけられています。

    ■平成5年 松山市井門町(松山インター付近)における地図作成事業

    平成5年に行われた松山市井門地区における地図作成は、松山インターチェンジの用地買収をひかえて当該地区が重信川の氾濫により地図と現地が一致しない地図混乱地域であったため、その解消として土地所有者等利害関係人全員の合意に基づいて地図訂正を行う、いわゆる集団和解方式として実施されました。
    松山自動車道を松山インターから利用するときには、その時に行われた地図作成という事業にちょっと気に止めていたければありがたいと思います。

    ■平成14年 日本一の松山地図づくりをめざして(社団法人愛媛県公共嘱託登記土地家屋調査士協会の提案)

    社団法人愛媛県公共嘱託登記土地家屋調査士協会(当時)は、松山市における地籍調査の実施にあたり、一筆地調査において土地家屋調査士の専門性を活用することを提案し、そのメリットとして「正確な境界点の確認作業に実施」「境界点の永久標識による現地での明示」などを提案しました。
    現在も松山市の地籍調査においては、これらの原則が継続され土地家屋調査士が境界の調査に従事しています。
    平成20年からは伊予郡松前町、平成22年からは今治市、平成27年からは大洲市の地籍調査に土地家屋調査士が事業に携わることになりました。

    ■平成17年 全国に紹介される道後地区の地図作成事業

    いま(令和2年7月)大規模な保存修理工事が行われてる道後温泉の本館ですが、周辺整備がされるまえは、道後温泉本館の玄関前は車道になっており、商店街から横断歩道を渡って入館していました。当時を覚えている方も今はまだ大勢いらっしゃると思いますが、この道路は1日に6,000台もの自動車の交通量がありました。
    道後温泉本館の周辺整備においては、この県道の迂回などの整備を伴うものでしたが、ここ道後地区においても、いわゆる地図混乱地域であったことが事業の妨げになっていました。
    平成17年に法務局における地図作成事業が実施されたことにより現地を正確に表した地図が作成されたため、県道の工事など周辺の整備ができるようになりました。
    この事業の成果は、全国的にも注目されることになり、登記所備付地図作成作業の効果事例として紹介されています。

    ■おわりに

    昭和62年に法務局の地図作成モデル事業として「全点に永続的な杭を設置する」という画期的な地図作成の実績は、愛媛会における地図づくりの原点として会員のDNAとして記憶され、現在もその精神は引き継がれています。
    繰り返しになりますが、地図の成果はデータとして保管されているに過ぎず、現地において境界が管理されていなければ、土地の安全で円滑な取引に支障をきたします。
    「杭を残して、悔いを残さず」
    愛媛県土地家屋調査士会におきましては、これからもこの重要性を認識し境界標の設置を促進するとともに広報していくことにしております。